小学4年生と5年生140名に対し、私物端末の一人1台体制を実施
椙山女学園大学附属小学校(以下、椙山小学校)は2014年、同大学教育学部との共同研究をきっかけにICTの取り組みをスタートさせました。当時、椙山小学校は無線LANや電子黒板、教材提示装置などが整備されていたこともあって、Wi-FiモデルのiPadを用いて、一人1台体制における効果的なICT活用についての研究に取り組んだのです。
同校のICT担当である福岡なをみ教諭は、「この共同研究を通して、子どもたちの変容に手応えを感じたことがタブレットの本格導入につながりました」と語っています。授業支援システムを使って普段手をあげない児童の意見をリアルタイムで見ることができたり、自分で作成したスライドを披露しながら人前で堂々とプレゼンができるようになったりとICTの教育利用に可能性を感じたといいます。このような取り組みを経て、椙山小学校では2016年度から4年生と5年生の計140名を対象に、私物端末によるiPadの一人1台体制を本格実施しました。ほかにも1年生から3年生に対しては、学校共有のiPadやiPad miniを整備し、ICTを積極的に取り入れた授業を実践しています。
データを児童の手元にこれまでの学びを広げるタブレットの活用
一般的に小学校におけるタブレット導入の傾向としては、学校貸与や学校共有という形で端末を整備するケースが多く、椙山小学校のように私物端末による一人1台体制を実施したケースは珍しいです。
これについて福岡教諭は、「子どもたちがタブレットに記録した写真や動画などのデータを削除することなく、手元に残してあげたいと思いました」と話しています。学校貸与や学校共有のタブレットの場合は、せっかく作成したスライドや動画もいずれは削除しなければなりません。椙山小学校の私物端末による一人1台体制は児童の学ぶ意欲に関わることを考慮したのです。
椙山小学校ではさまざまな学習場面でタブレットを活用しています。授業支援システムや漢字や計算などのドリル系教材のアプリの活用、調べた内容をプレゼンテーションで発表したり、マット運動や音読の様子を動画に撮影して確認したりするなど、今までの学びを広げる手段としてタブレットを活かしています。また、これらのデータを端末に保存し、いつでも場所を選ばず確認することが出来ます。
福岡教諭はタブレットを使った学習の効果について、「子どもたちの“見せたい意欲”や“学びたい意欲”が高まり、主体的になることです」と話しています。プレゼンテーションできちんと相手に伝えようと内容を理解したり、上手な姿を動画に収めようと何度も練習をしたりと積極的に学習に取り組む姿が見られるといいます。
ネットに関するトラブル防止を最優先「i-FILTERブラウザー&クラウド」の導入
学習用途としてタブレットが有効であるとはいえ、情報モラルや情報リテラシーが発達段階にある小学生が使うことについては、教員も保護者も不安が多くあります。また教員たちもタブレットを使い慣れているわけではないため、どのようなトラブルが発生するのか予測がつきません。福岡教諭はタブレットの導入時を振り返り、「保護者や教員に対して“子どもたちが使っても大丈夫ですよ、安全に使えますよ”といえる環境を作ることが重要でした」と語っています。児童に主体的なタブレット活用を促すためには、大人が自信を持って安心・安全をうたえる環境が必要だったというのです。
椙山小学校のタブレット導入や管理・保守を請け負う教育産業 株式会社 山口宗芳氏は「保護者や先生方の不安がもっとも多いインターネットに関するトラブルを防ぐことを最優先して、フィルタリングには『i-FILTERブラウザー&クラウド』を選びました」と語っています。
選定理由としては、「i-FILTERブラウザー&クラウド」はこれまでも多くの教育機関で導入実績があることや、フィルタリングできるカテゴリの項目が多いことを山口氏は挙げました。
椙山小学校におけるフィルタリングについては、同校の情報化コーディネーターと共にブロックするカテゴリの項目を決め、さらには「i-FILTER Proxy Server」に設けられた校種別の設定を参考にして「i-FILTERブラウザー&クラウド」にも反映したと山口氏は語っています。年齢や学年ごとに情報リテラシーや情報モラルが異なる教育機関においては、児童の成長に合わせた柔軟なフィルタリングの設定が求められ、「i-FILTERブラウザー&クラウド」ならこうした要望にも対応できるというのです。
安心してタブレットが使える環境で児童主導の学習場面を築く
タブレットの一人1台体制を導入してから1年が経過した椙山小学校。福岡教諭は全体の取り組みを振り返り、「教師が不安に感じていても、子どもたちの方が学習を引っ張ってくれる場面が増えてきました」と語っています。タブレットを使って“こういうことがしたい”と教師が問いかけると、児童の方から面白いアイデアが飛び出したり、タブレットで撮影した自分の姿を客観視することで学習を工夫したりする行動が見られるといいます。こうした自由な発想や試行錯誤が生まれる環境は、トラブルに巻き込まれることなく安心してタブレットを使える環境があってこそだといえるでしょう。
また今後の課題について福岡教諭は「高学年になると学習内容が増えるため、タブレットを使った学習活動の時間を確保することが課題です。タブレットの基本的な操作について一から教えるような時間はできるだけ取り除き、高学年ではすぐに実践で使えるよう3~4年生のうちからさまざまな学習場面でタブレットを使えるように慣れておくことが大切だと思っています」と語っています。
「i-FILTERブラウザー&クラウド」に関しては、今後長期的にタブレットを使っていくなかで、動画の制限をどうするかが課題になり得ると福岡教諭は話しています。現在は児童のタブレットでは動画視聴ができませんが、ネット上には体育や音楽などの学習に活かせる動画も多くあります。椙山小学校では教員のタブレットからこれらの動画にアクセスして、児童に見せるようにしていますが、自分のタブレットからそれぞれのペースに合わせて動画を視聴できる環境が本当は望ましいというのです。ただし、不適切な動画も多く存在するため、動画視聴については現場も慎重に進めていく必要があるようです。
タブレットを学習用途で効果的に活用していくためには、児童も教員も試行錯誤の連続です。しかし、こうした新しいチャレンジこそ、現場にもたらすインパクトは大きく、教員の予想を超えた児童の学ぶ姿に出会うことができます。椙山小学校では今後も積極的にICTを活用し、児童一人一人の自己実現につながる豊かな学びを目指していくといいます。
椙山女学園大学附属小学校
椙山女学園大学附属小学校は一貫教育の一翼を担うべく1952年に創設されました。当初は男女共学でしたが、1964年以降、女子のみの小学校として現在に至っています。同校では「人間になろう」を教育理念に掲げ、知・徳・体の調和のとれた共創、共生の心を育む教育活動を実践しています。国際交流、英語教育、体験学習などを多く取り入れるとともに、アート、伝統、スポーツ、サイエンスなど幅広い分野の講座も受講できるのが特徴です。2012年にはユネスコスクールにも認定され環境教育などにも力を入れています。