全国に先駆けて1人1台端末を実現、 現在は2代目端末を活用
渋谷区は2017年9月、区立小中学校の児童・生徒にLTE対応タブレット端末を配布し、全国に先駆けて「1人1台端末」を実現した自治体です。これを実現できた背景には、1人1台端末をテーマに掲げた「渋谷区長期基本計画」があります。ICT活用はコンピューター室のように限られた空間だけで行うのではなく「いつでも、どこでも」端末を利用して学習ができるよう環境整備を進めていく、という考えがありました。同計画がスタートした後に「GIGAスクール構想」が始まったのです。
2017年に導入した1代目の端末では当初Teamsなどが導入されていませんでしたが、新型コロナウイルス感染症拡大を受け、急遽Teamsを導入し、双方向の授業を可能にしました。休校期間中もオンライン学習という形で端末の活用を図りました。その後、2020年9月に「Surface Go 2」12,500 台を整備し、「i-FILTER」Ver.10を導入しました。
2代目端末の整備は、教育委員会だけでなく、技術の専門家が集まる渋谷区のICTセンターなど区役所全体で一緒に進めました。「教育委員会だけでは難しい面もあります。専門的な知見を持つ区役所メンバーと一緒に行いました」と渋谷区教育委員会事務局教育政策課教育ICT政策係の山﨑卓夫氏は、端末をスムーズに導入できた経緯を語ります。
1代目端末の導入当時は現場の先生の抵抗感はあったようです。そこで各校にICT支援員を月8回ほど派遣し、端末の使い方などをレクチャーしました。これまで3年間端末を活用してきた経験もあり、2代目端末では全校で利用できる段階となっていました。混乱もなくすんなりと利用が始まり、今に至っています。また、教員は東京都の職員のため、他区からの異動もあります。その際には教員同士が学校内で活用を教え合うことができるほどに渋谷区の現場レベルは向上しています。
このようにICT利活用の進む渋谷区では、タブレットの活用の充実や推進をさらに図るため「渋谷タブレットの日」を設けています。タブレット端末の実践内容を発信するもので、2019年は全校一斉、2020年は各校ごとに開催しました。2021年は小学校単位、中学校単位で行いました。
こうした発信の機会などもあり、現在子どもたちはタブレットの活用に慣れ、校外学習などでも抵抗なく使っているようです。「学校が本人や保護者と相談のうえ、学校にこられない子どもたちに授業風景を自宅で見て学習できるようにしているケースもあります。また、1クラスが2教室を使い、片方をオンライン授業とするなど授業が密にならないようにする取り組みも行っています」(山﨑氏)。
細かなチューニングと時間割機能で安全な学習環境を確保
「i-FILTER」の導入を決めた理由について、「デジタルアーツの製品は良いとの評判もありました。扱いが容易で、事業者も運用上助かるようです」といいます。渋谷区は、児童・生徒のためインターネットを安心・安全の環境で使うという方針で端末を運用しています。「1代目端末は別のフィルタリングソフトを導入していましたが、事業者の新しいICT教育基盤の総合的な提案の中で、フィルタリングソフトについて、『i-FILTER』Ver.10の提案があり、採用が適正であるという判断のもと、導入しました」(山﨑氏)。
山﨑氏は「不適切サイトはどうしても存在します。不適切サイトを子どもに自由に見せてしまうのは、子どもの成長に悪影響を与えてしまいます」と警鐘を鳴らします。また、「何よりフィルタリングの有無は保護者も気にしており、子どもたちがしっかり守られているのかと心配する声もあります」。現場の先生にとってもフィルタリングがあることにより、先生にかかる負担も軽減できます。山﨑氏は「先生もフィルタリングの効果を感じています。不適切なサイトを自由に閲覧するのはそもそも端末の利用目的から外れています。端末を授業でしっかり活用するには、一定の制限は必要です」。
1代目端末からフィルタリングの設定はほとんど変えずに利用していますが、「必要に応じてフィルタリングは細かくチューニングしています」と山﨑氏はいいます。おおむね平日も授業時間外も同じルールを適用していますが、授業時間はソーシャルブックマークのカテゴリはブロックせず、授業時間外はブロックするなど細かいチューニングを行っています。そのほか、動画サイトは見られないようにフィルタリングをかけ、SNSもフィルタリングで禁止しています。
「時間割機能」を活用して児童・生徒のインターネット利用時間の制限も行い、インターネットの長時間利用を防いでいます。小学校は平日8時―16時、中学生は8時―17時までの利用とルールを定めています。夏休みに関しては、利用時間を20時までに延長していました。
「i-FILTER」Ver.10のデータベースは、従来の「ブロック対象となりうるURLをカテゴライズする方式」から「脅威情報サイト」や「ポルノ・アダルトサイト」、「ニュース」など「あらゆるURLをカテゴライズする方式」に変わっています。そして、カテゴリに分類されない「未カテゴリ」のURLについては、授業時間はブロックせずに、授業時間外はブロックするように設定しています。これまでのフィルタリングでは、現場の先生が見たいWebサイトが見られない場合は、教育委員会が先生からの申請を1件1件受け付けて、ブロックを解除していましたが、現在は一定程度解決しています。山﨑氏は「以前に比べて申請も減っています。夏休み期間中もブロックによる申請は上がってきていません」と述べています。
誰もが家庭に持ち帰り、いつでもどこでも学習できる
渋谷区では閉域LTEを整備しており、持ち帰り学習を想定して端末を活用しています。閉域LTEのため、家庭にWi-Fi環境がない児童・生徒でもインターネットにつなげる仕組みとなっています。山﨑氏は「誰もが家庭に持ち帰り、いつでもどこでも学習できることを目標にしていました。インターネット環境から取り残されてしまう子どもがいてはならない、と渋谷区は全員がインターネットを使えることを前提としています」と強調します。
その方針のもと、持ち帰り学習は渋谷区の全校で実施しています。宿題の出し方などは学校ごとに特色があります。持ち帰り学習を実施するには、セキュリティのほか、故障やパスワード忘れなども課題に挙げられますが、渋谷区は故障対応のサービスデスクを設けています。また、顔認証でのシングルサインオンとなっており、セキュリティにも十分配慮しています。
学習では、オンライン教材などを活用しています。利用時間帯を設定し、利用時間外は厳しいフィルタリングを適用していますが、学習に必要なサイトは「i-FILTER」のブラック除外リストに登録し、常に利用できるようにしています。このブラック除外リストは区で統一しています。こうした時間帯によってアクセスできるサイトを柔軟に変えることができる「i-FILTER」Ver.10の機能により、持ち帰り学習を効率的に行うことを可能にしています。
また、教員も端末の持ち帰りを実施しています。校務系も学習系も同じ端末1台で行っているため、働き方改革にもつながっています。
学習者用デジタル教科書の早期導入目指す
渋谷区はGIGAスクール構想のテーマとして「Withコロナ・ポストコロナを見据えた児童生徒へのより良い学習環境の提供」、「セキュリティと将来性を踏まえた安定運用」、「教職員が本来業務に専念できる環境の整備」を3本柱に掲げ、端末利用を加速させています。
今後は「学習者用デジタル教科書の早期導入を目指します」(山﨑氏)。デジタル教科書のほか、自宅学習も強化するために回線の見直しも検討しているそうです。ランドセルに重たい教科書を入れることなく、家庭で教科書を閲覧することが可能となるかもしれません。
渋谷区は現在、データセンターを基軸とした閉域回線で運用しており、オンプレミス版の「i-FILTER」を利用しています。次期基盤の入れ替え時には、クラウド版の「i-FILTER」の導入を含めて検討を進めていくとのことです。
端末の活用については、危険なサイトへのアクセスなど最低限守らなければならない部分は「i-FILTER」Ver.10で守りつつ、細かいチューニングを行うことで、端末利用の自由度を上げていく考えです。