現場のICT活用を高めるため、トラブル対応へのスピード感を重視
摂津市はGIGAスクール構想前から、ICTによるわかりやすい授業づくりに取り組んできた自治体です。コロナ禍においても“子どもたちの学びを止めない”という想いは強く、GIGAスクール構想も早い段階から着手しました。その結果、2020年12月にはiPadを約6800台と、学校からインターネットに直接アクセスできる学習用ネットワークを整備し、「i-FILTER@Cloud」GIGAスクール版(以下、「i-FILTER@Cloud」)も導入しました。
「今まで教員のツールだったICTを、子どもたちが日常的に使える学習ツールにしていきたいのです」と摂津市教育委員会 学校教育課 指導主事 宗木俊憲氏は語ります。デジタルドリルを活用した個別最適化学習や、協働学習ツールを用いたグループワーク、自分の考えを表現豊かに伝えるアウトプットなど、子どもたちが学習でICTを使いながら、授業の幅を広げていきたい考えです。このような学習を実現していくためには、教員のICT活用率を高めていかなければなりません。そこで、宗木氏が重視したのは、教員のチャレンジを促すトライ&エラーの方針と、トラブル対応へのスピード感でした。
「まずは失敗を恐れず、iPadを使っていこうと先生方に呼びかけていきました。一方で何かトラブルが起きたときの対応が遅れてしまうと、ICTを使わなくなる先生もいるので、学校のICT活用率を高めるためには、トラブル時のスピード対応が不可欠だと考えていました。
その点、「i-FILTER@Cloud」は子どもたちが問題のあるサイトへアクセスしたり、インシデントが発生した場合であっても、リアルタイムで連絡メールが来るのですぐに対応できます。わざわざ管理画面にアクセスしてチェックする必要がないのもいいですね」(宗木氏)。
フィルタリングに関しては、有害サイトとSNSの制限を重視している摂津市。「学校が提供したiPadから、子どもたちが自殺や犯罪など命に関わる有害サイトにアクセスできたり、SNSでトラブルが起きてしまうようなことがあってはなりません。未然に防ぐことで現場の教員が安心してICTを活用できるとともに、家庭や子どもたち自身にも使い方を考えてほしくて、ルール作りの大切さも呼びかけています」と宗木氏は語っています。
柔軟なフィルタリング設定とわかりやすいUIで、教員の負担軽減につながる端末運用も実現
GIGAスクール端末導入以前から、学校のパソコン室でオンプレミス版の「i-FILTER」を導入していた摂津市。同市は、GIGAスクール端末についても当初から家庭への持ち帰りを想定し、クラウドを介してセキュリティを担保できる「i-FILTER@Cloud」を選択しました。宗木氏は特に、「i-FILTER@Cloud」のわかりやすいUI(ユーザーインターフェイス)にメリットを感じたと述べています。「統合管理画面のUIがとても簡潔で、何をどうすれば、どうなるのか、とても分かりやすいのがいいですね。ブラウザ上でブラックリストを細かく設定できるなど操作も簡単ですし、学校から要望があった際も即時に対応できます」(宗木氏)。
またフィルタリングルールでは、デフォルトのフィルター設定に加えて、ブラックリスト方式で見せたくないサイトを制限しているそう。「最初に設定されているフィルター設定の性能が良いためか、追加の作業も少なくて助かっています。『NHK for School』のみアクセスを許可する、といったように、YouTubeのチャンネルにおいても個別に許可できるのもいいですね。教員が授業でよく使うWebサイトがフィルタリングルールで弾かれることもあるのですが、こちらも個別に許可できるので問題なく使えています」(宗木氏)。
さらに、運用面においても「i-FILTER@Cloud」は負担軽減につながっていると宗木氏。たとえばiPadの場合、OSのバージョンが変わったり、48時間以上ロック解除されなかったりすると、ネットワークから外れてプロキシ認証を求められることがあり、これが現場の教員の負担となってしまいます。特に、毎日iPadを使わない小学1年生が、こうした状況に直面しているそうです。このような場合の対応策として、「i-FILTER@Cloud」ではiOS専用アプリ「i-FILTER@Cloud iOSエージェント」が用意されています。ネットワークにつながらないときなど、同アプリを起動して「認証」ボタンを押すだけで、再認証作業が完了します。「この作業を各学校に周知したことで、小学1年生でも自分で認証エラーを解決できています。学校からの問い合わせ件数も減ったので非常に助かっています」と宗木氏は述べています。
生徒が端末の利活用ルールについて考える職種体験を、デジタルアーツとの協業で実施
摂津市では、子どもたちがiPadの適切な使い方を考え、安心・安全に使用するためのルール作りなど、情報活用能力の向上や情報モラル教育も重視しています。たとえば、中学生のキャリア教育では、情報リテラシー教育も絡めた「職種体験」を実施。これはリアルな職場体験が難しくなったコロナ禍において、摂津市が新たに始めたキャリア教育で、17の企業等と連携し、中学生が企業の抱える課題に対し、チームで解決策を提案するというプログラム。「i-FILTER@Cloud」を提供するデジタルアーツも、同プログラムに参加しており、市内2校の中学2年生に対して、「学習用端末の利活用ルールを考える」をテーマにした課題に挑戦してもらっています。
本事例の取材時点では、デジタルアーツが第1回目のオンライン授業を実施。生徒たちは身近な問題を通してインターネットやセキュリティに関する社会課題を学び、インターネットの光と影についてディスカッションをしました。この後は、学んだ知識や問題意識をもとに、チームで解決案を考え、オンラインによる中間発表、そして最終プレゼンテーションに臨みます。
情報活用能力の育成とモラル教育の両輪で、ICT活用の質を高める
摂津市ではまだまだ課題はあるものの、日を追うごとにiPadが子どもたちの文房具として当たり前に使われるようになってきたようです。
「使い始めた当初は“まずは使ってみよう”という方針で、カメラや調べ学習など簡単な活用から慣れていきました。それが今では、『Google Workspace for Education』を活用して共同編集をしたり、プレゼンテーションをしたり、またデジタルドリルを活用した個別学習に取り組むなど、多様な使い方をする学校も出てきました。ICTの効果的な活用という視点では課題がありますが、活用自体は広がってきたと実感しています」と宗木氏は述べています。さらに今後について宗木氏は、持ち帰り学習の頻度を上げることや情報活用能力の育成に力をいれたい考えです。特に後者に関しては、学年ごとに到達目標を示した摂津市独自の情報活用能力の体系表を仕上げ、総合的な学習の時間を用いたカリキュラムの作成も見据えています。
「中学3年までにICT活用を通してどのような力の育成が求められるのか、操作面とモラル面の両方で、子どもたちが成長できる環境を築きたいです」と宗木氏。教科書やノートを使う学びも大切にしつつ、学びをより深める文房具としてiPadを活用していきたい、このためにも子どもたちの安全と教員の負担軽減のツールとしてフィルタリングが必須、とのことです。
「学び方は変わっても、様々な人やモノとかかわったり、ともに活動したり、思いやりの心を育てたりといった“教育の本質”は不変です。ICT機器を文房具として有効に活用しながら学ぶことと、体験を通して実感を伴って学ぶこととのバランスをとりながら、摂津市の将来を担う子どもたちに『たくましく生き抜く力』の育成をめざしていきます」と宗木氏は語ってくれました。ICTでさらなる進化を目指す摂津市。このような環境で学ぶ子どもたちの成長した姿が、今から楽しみです。